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絶好“腸”ニッポン(4)現代人を襲う「腸管バリア機能」の低下 乳酸菌は強い味方!

ここまでの連載で、現代人の健康維持や老化の予防に「腸」が大きな役割を果たしていることがおわかりいただけたと思う。では、忙しい現代人ができることはなにか。最終回の今回は、腸の健康に欠かせない乳酸菌の可能性をさらに追求していこう。

 病原菌やウイルスなどから体を守ってくれる「腸管バリア」機能が、健康な暮らしを実現するために重要な役割を果たしている事実を、前回お伝えした。この腸管バリア機能、実は現代生活の中でさまざまな脅威にさらされている。

 腸管バリア機能を低下させる原因が、腸の「炎症」にあると指摘するのは順天堂大学医学部の小林弘幸教授だ。

 日本体育協会公認スポーツドクターでもある小林教授は、わが国初の便秘外来を開設するなど腸のスペシャリストとして知られる。ちなみに、便秘外来は初診6年待ち(!)という人気だ。

 20年以上に及ぶ研究の中で自律神経バランスの重要性に着目し、自律神経研究の第一人者として数多くのトップアスリートや芸能人のコンディショニング、パフォーマンス向上の指導にも携わり、テレビ、雑誌等多方面でも活躍中。その小林教授によれば、腸の炎症を示す重要な症状が「便秘」だ。

 便秘は食事の変化やストレスなどで誰もが経験するものだが、慢性化する例も多く軽視は禁物。大腸がんなど深刻な病気の温床にもなる。極端な例だが、小林教授がこれまで治療したなかには、何年分もの排泄物が直腸にたまって固形化し、やむなく手術して取り出した固形物は金槌で叩いても壊れなかったという例もあるそうだ。

 「たかが便秘、されど便秘。便秘が慢性化すると腸だけでなく全身にも悪影響を及ぼします。便が腸内に長時間滞留すると異常発酵を起こして有害物質を発生し、悪玉菌が増えて腸内環境がどんどん悪くなります」

 便秘により腸内に発生した硫化水素やアンモニアなどの有害物質は血液中に取り込まれて全身を巡る。すると、汚れた血液がからだじゅうに運ばれることで肌が荒れるといったことだけでなく、肝臓、心臓にも影響が及んでやがては病気にもなりかねない。小林教授が続ける。

 「便秘が慢性化すると腸自体がむくんで腫れぼったくなり、動きも悪くなります。便秘を解消しようと刺激性のある下剤を多用して腸の粘膜が黒く変色してしまった人もいます。これらは腸の炎症によるもの。つまり便秘は腸の炎症を引き起こす元凶なのです」

 腸の慢性的な炎症は、腸に3つの異変をもたらす。1つ目は腸管粘膜という組織にある絨毛(じゅうもう)が平板化して短くなること。絨毛が短くなると腸管バリア機能が低下して免疫力の低下を招く。また、絨毛は食べた栄養素を取り込むはたらきをするため栄養素の吸収が悪くなる。

 2つ目は腸壁にある腸を動かすための筋肉がむくんで、腸の動きが悪くなること。3つ目が腸の筋肉を動かすための神経細胞が変性してしまうことである。

 「腸の炎症が抑えられると、絨毛が短くならず、その高さが維持することができ、そのため免疫の低下も抑えられるのです。同時に栄養素の吸収もよくなるため、血液の流れが改善されます。血液がきれいに流れることで病気や老化の予防につながるというわけです。

さらに大事なことは、腸内環境の改善による自律神経系の安定です。自律神経系が安定することは、腸の動きを良くし、血液の流れを改善すると考えられるのです」

 一般的には40歳以上になると、腸内では善玉菌が減り腸内環境が乱れるといわれている。小林教授が指摘する腸の細胞の変化はまさに腸の老化現象そのものといえそうだ。

 では、腸の老化を防止する術はないのか?そんなことはない。

 「腸の老化は年齢だけでなく食事などの生活習慣にも左右されます。最近、加齢とともに腸内細菌叢のバランスが崩れ慢性炎症の起こりやすい環境がヨーグルトの日常的な摂取で改善したというマウスの研究が行われました。

乳酸菌の摂取により腸管バリア機能を高める可能性を示す報告もあります。便秘外来の患者さんを診ている限り、ヨーグルトは1カ月程度続けて食べることで効果が出始めるようです」(小林教授)

 腸の健康には「バランスのよい食事を心がける」「規則的な生活を送る「ストレスをためないようにする」などのライフスタイルの見直しが必要なことはいうまでもない。

そして、その上で、毎朝、欠かさずにヨーグルトを食べるなど乳酸菌の継続的な摂取は、忙しい生活の中で手軽にできる方法として大いに役立ちそうだ。

絶好“腸”ニッポン(2)おいしく食べる! 腸を元気にする暮らし方

大腸がんの増加をはじめ、さまざまな腸の不調や病気が人々を苦しめるようになった現代にあって、「腸」はわれわれに何を訴えかけているのか。長年にわたり、人間が生きる上で根本的ともいえる代謝という働きから病気を見つめてきた名医、伊藤裕・慶應義塾大学医学部教授に、現代人に伝えたいメッセージを聞いた。

■「腸」の健康が注目されているワケ

 このところ、「腸の老化」なるキーワードをひんぱんに耳にするようになった。どう理解すればよいのか。

 「私たちにとって“生きていける”、ということは、まず栄養を摂り、日々のエネルギーをそこから得ていることにほかなりません。

つまり、“食べる”ことはすべての基本的になる事柄で、そのおもな役割を担っているのが腸。そのため腸が衰えるということが私たちの寿命が短くなることと直結するということです」(伊藤教授)

従来指摘されているとおり、腸をはじめとする消化管(器)は食べ物から栄養を消化、吸収する重要な臓器である。しかし現在、腸に対する概念はそれ以上に広がっているという。

 「じつは、腸は消化吸収ということ以上に、それが悪くなると他の臓器も影響を受け、老化が進むという考え方に変わってきています。つまり、腸の調子が悪くなると単に得られる栄養が少なくなるという以上に、ほかの臓器の調子にも悪い作用を及ぼすという考え方です」

 それを私たちは、実感しているのだろうか?

 「たとえば、お腹が痛くなるだけでやる気が湧かなかったり、気分が悪くなったりしませんか。それは、腸の調子が悪いことが脳に働きかけて、意欲などをなくしてしまうからなんです。

反対にお腹が元気であれば、他の臓器にも良い影響を与えることになります。それはただ単に栄養をたくさん摂れるといったこととは違う、腸からの直接の働きかけなのです」

 たしかに、私たちはお腹(腸)の具合が悪いと何かやる気すら失せてしまうものだ。精神的に参ってしまうことこそが、腸からの影響を全身が受けていることの証拠だと伊藤教授は強調する。

■「腸の老化」とはなにか

 「腸の老化とは、たとえば若いころは平気だった脂っこいものが食べられなくなったり、たくさん食べると胃がもたれるといったことです。

これは腸の動きや、消化液の出が悪くなるためです。男性は神経質なタイプが多いので、若い時は比較的下痢をする人が多いんですが40歳、50歳になってくると、今度は便秘で悩む人が増えてきます」(伊藤教授) 高齢になって便秘ぎみになった人はさらに注意が必要である。なぜならば・・

 「便秘ぎみになっていく人の中には、あんまり食べなくなってしまったりして栄養不足になる人がいます。そうしてだんだん体が弱る“虚弱”な状態から肺炎や認知症、寝たきりといった問題も起こってくるんですね。

たとえば90歳を超えても元気に肉を食べている人は、肉を食べることで長生きしているのではなく、年をとっても腸がちゃんと動いていて、肉を食べることもできる人こそが健康で長生きできている、という意味なんです」(伊藤教授)

 どうやら、これまでの発想を180度転換する必要がありそうだ。

■“腸の気分”をよくする

 じつは臓器の中でも腸は“老いやすい”もののひとつなのだ。伊藤教授によれば、老化に関わる「p16」という遺伝子がどの臓器で強く働くようになるのか、が、マウスを使った研究でわかっており、それが腸であるという。

「p16」には、がんをはじめ細胞の増殖を抑える作用があり、これが強くはたらくと老化が進むことになる。「腸から老いる」といわれるのはこのためだ。

 では、「腸の老化」に現代人はどう対処すればいいのだろうか。

「腸の健康もやはり環境で決まるもの。つまり、食べるもの、食行動などそういったの影響が大きい。腸の“気分”をよくするにはどうしたらいいか、考えることが大事でしょう」

■オススメは発酵食品

「納豆はいいですね。タンパク源となるし、腸内細菌を増やしてくれる発酵食品。ヨーグルトもいい。ただし大切なことは、習慣を続けること。1カ月に一度、思い出したように食べても効果は薄い。決まった時間に必ず食べるぐらいの気構えが必要です。いずれにしても、現代人はもう少し食べるということを真面目に考えないといけませんね」(伊藤教授)

 たとえば昼休み、机に座ったまま何か適当に食べたりしてはいないだろうか。そんな “悪癖”は腸にはちっともありがたくない。

仕事場をしばし離れて、ゆったりと美味しいものでも食べにいってはどうだろう。ゆったりとした気分でおいしい食事をとる。それだけで、疲れた体に対する何よりの「お手入れ」になるのだ。

伊藤裕(いとう ひろし)慶應義塾大学医学部内科学教室教授。
1957年、京都市生まれ。1983年京都大学医学部卒業、同大学院医学研究科博士過程修了。ハーバード大学医学部博士研究員、スタンフォード大学医学部博士研究員、京都大学大学院医学研究科助教授を経て、2006年から現職。専門は高血圧、糖尿病血管合併症、再生医学、抗加齢医学。世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。著書に「臓器の時間 進み方が寿命を決める」(祥伝社)ほか。

絶好“腸”ニッポン(1)現代人を悩ませる「腸の老化」の脅威

IT関連企業に勤めるユージさん(32歳)は、通勤時に各駅停車の列車しか乗れなかった。とりわけ、仕事が忙しくイライラが募るようなときはそうだ。ひどいときは駅に停車するたびにトイレへ駆け込むというありさまだった。

 だから、ユージさんはどの駅のどこにトイレがあるか、熟知している。トイレが空いてないときは改札を出て、コーヒーチェーンに飛び込むこともあった。

 病院では「過敏症腸症候群」と診断され治療を受けた。医師、上司らと相談し配置替えと通勤時間のシフト制に変えてもらい、現在療養中である。

 過敏性腸症候群は、その多くが不安やストレスで下痢や便秘を引き起こす腸の病気として注目されている。仕事や勉強、リストラなどがきっかけで発症することが多い。

 たかがトイレと軽く済ますなかれ。「トイレが気になって通勤、通学時の満員電車に乗ることができない」「大事な会議があるのに集中できない」「外出ができず、ひいてはひきこもりとなってしまう」。同症候群は、社会生活を脅かすほどの影響がある。

 ヒロユキさん(60歳)は10年前、出張先の海外のホテルで突然下血。帰国後「潰瘍(かいよう)性大腸炎」と診断された。当初は薬でやり過ごしていたがそれも限界となり、腸を大きく切除する手術を受けた。

 その後、一度は人工肛門をつけるまでに至ったが、症状が改善されてそれは使っていない。ただ、ずいぶん落ち着いたものの食事を1日5回に分けてとり、そのたびにトイレに行かなければならない。必然的に、退職を余儀なくされた。いまは事務のパートで生計をたてている。

 潰瘍性大腸炎は免疫機能の異常が関係して発症するといわれる難病。原因は明らかではないが、悪化の要因にはストレスが上げられている。

 3年前。テルヒサさん(67歳)は、朝のトイレの後、“おしり”から出血していることに気がついた。一瞬、「痔かな?」と思ったが心配になりすぐに病院を受診。精密検査のため紹介された大学病院で「直腸がん」と診断された。幸い発見が早く、手術は無事成功。以来、好きな酒を止めるなど努めて健康に気を遣うようになった。

■「人は腸から老いる」

 現代人の生活にさまざまな形で影響を及ぼしている「腸」。その重要性を指摘するのは、東京都立川市にある「松生(まついけ)クリニック」の松生恒夫院長だ。

 「腸が元気でなければ抵抗力が弱まり、さまざまな病気につながります。なによりも“老化”が進みやすくなるわけで、“人は腸から老いる”とまでいわれているのです」

 松生院長によれば、日本人の食生活が大きく変化した80年代以降、大腸がん、過敏性腸症候群、便秘の患者が増えた。食物繊維、ビタミン、カルシウムなどの栄養素の慢性的不足が腸の病気を起こし、脳や体の老化につながっているのだという。

 さらに運動不足やストレスの増大なども、腸の老化に追い打ちをかけている。ストレスは腸の活動に影響を与えやすく、東日本大震災でも多くの被災者が便秘を患ったことがわかっている。腸には1億個以上もの神経細胞があることから「第2の脳」と呼ばれるほどデリケートな臓器なのだ。

 また、便秘はそれ自体が大腸がんのリスクである。いまや大腸がんには全国で年間9万8000人が罹患し、4万3000人が命を落としている。死亡者数は、わずか半世紀で9倍に増えた。ちなみに大腸がんは40歳を過ぎるとその発生率がグンと上昇するため、中年以降になると特に要注意だ。

 松生院長は、「かつて日本ではほとんどみられなかった腸の病気が増えてきたのは、食の欧米化などが一因といわれています。腸には人間の免疫システムの60%が集まっていて腸が元気な人ほど長生きする。若いときから腸の健康に気をつけてほしい」とアドバイスする。

 とはいえ、腸の老化、ひいては腸の病気はなかなか実感しにくい。何らかの症状があるからといって、必ずしも明らかな病変があるとは限らないのだ。

 「たとえば過敏性腸症候群と診断がついた40代のある男性は、外で下痢がガマンできずに漏らしてしまったことが受診のきっかけとなりましたが、検査ではとくに病変は見つかりませんでした」(松生院長)。実は過敏性腸症候群は内視鏡検査では異常が見つかりにくい。見た目では判断が難しく、排便の回数や状況などを総合的に考慮する必要がある。

 では、絶好“腸”で毎日を過ごすためには、どうすればいいのか。そのヒントを次回以降、専門家への取材から探ってみよう。

 メモ 過敏性腸症候群は20代、30代の若年層に多く、患者数はわが国の成人の1割以上、約1200万人に上るともいわれるほどだ。また、大腸がんに至っては男性のがん死の第3位、女性では同じく第1位である。そして若い世代を中心に潰瘍性大腸炎と同様、原因不明の炎症性の難病である「クローン病」が急増しているとの指摘がある。

松生恒夫(まついけ・つねお)1955年、東京都生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。松島病院大腸肛門病センター診療部長などを経て、東京都立川市に松生クリニックを開業。大腸内視鏡検査や炎症性腸疾患などが専門。「腸の名医が警告する自己流診断の落とし穴」(双葉新書)「腸育をはじめよう!」(講談社)「長生きしたけりゃ腸は冷やすな」(主婦の友社)ほか著書多数。

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